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Vol.19 家の中には秘密がある。家具がつむぐ物語3選。

人類が発明した事象の中で、個人的には一番偉大だと思うのはクーラーです。自動車がなくても電子レンジがなくても、何ならスマートフォンがなくても生きていけますが、クーラーがないと生きていけません。夏より冬が苦手な、ライターのタラです。

さあ、大好評(?)の小説紹介第三弾! 部屋、家、と来て今回は家の中にあるアイテム。椅子に窓にベッド……。どの家にもある普通のモノが、思わぬ物語を語りだす。暑い夏、クーラーの効いた部屋で、まったり読書タイムはいかが?


 

1『人間椅子』 江戸川乱歩

 

 

<あらすじ>

著名で、美しい女流作家の佳子。彼女は執筆の前に、お気に入りの椅子に座り、自分に届くファンレターに目を通すのを日課としていた。賛美や賞賛の手紙がほとんどの中、ひときわかさ高い原稿用紙の束が……。創作物が送られてくることは珍しくなかったが、ほとんどが退屈なもの。何の気なしに目を通すと、何故かそこはかとない不気味さと、異常性を感じた。題名も著者名もなく、唐突に「奥様」と呼びかけで始まり、淡々と進む。

その物語は、とある醜い家具職人の独白。家具職人は言います。家具を作る毎日の中、自分の作った椅子にはどんな人が座るのか、最初に座るのは誰か、どんな家に置かれるのか、そんなことばかりを妄想している、と。

妄想にとらわれた男は、やがて自分の作った椅子の中に潜り込むことを思いつく。そうして椅子と一体となり、そこに座る人間のぬくもりを感じることに異常な快感を覚えた、と続く。そして今は、著名な女流作家の家に置かれていると告白する。

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怪奇作家、江戸川乱歩の超有名作品。タイトルからして、不気味ですね~。

小説自体は短く、内容の八割ほどはこの家具職人の「独白」で綴られます。何が現実で、何が虚構なのか。その境界線があいまいになり、気色悪さを倍増させます。

この作品の肝は、結局、その家具職人は本当に椅子に隠れていたのか、ということ。あくまで男が考えた小説という「創作物」である可能性が高いが、しかし一方で妙に生々しい現実感も伴っていて、もしかしてという最悪も捨てきれない。そんなワクワクが楽しめる一遍です。人気ドラマ、世にも奇妙な物語チックな感じでしょうか。そういうジャンルが好きならオススメです。

 

2『高い窓』 レイモンド・チャンドラー

 

 

<あらすじ>

傲慢な未亡人から、亡き夫の盗まれた「ブラシャー・ダブルーン」という貴重な金貨を取り戻すよう依頼された私立探偵のマーロウ。外部から侵入された形跡がないことから、夫人は息子の嫁リンダを疑う。元ナイトクラブの歌手で金遣いの荒いをリンダを快く思っていない夫人は、ついでに離婚も取り付けるように頼むが、リンダはすでに家を出ており杳として行方が知れない。

一方、自分が雇い主を殺したと思い込んでいる秘書マール、夫人を強請る謎の男、マーロウをつけまわす別の探偵、金貨偽造を目論む犯罪集団、そして次々起こる殺人事件。金貨探しはいつしか複雑な人間関係を浮き彫りにし、同時に消えた金貨の驚くべき過去を白日の下に引きずりだすことになっていく。

消えたリンダはどこに? そして金貨を見つけ出すことができるのか。ハードボイルドの代名詞、マーロウの活躍を描く傑作小説。

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一時期、ハードボイルド小説にどはまりしました。当然、レイモンド・チャンドラーが描くマーロウ・シリーズも全て読破。とにかくマーロウの渋さ、やさしさ、恰好よさに痺れるのです。ミステリーとはどう違うの?と問われると、一言で答えるのは少々難しいですが、探偵の「思索」が中心なのがミステリー、「行動」がメインに描かれるがのハードボイルド、ととりあえずは分類されるようです。

百聞は一見にしかず。主人公のマーロウになった気分で、物語世界に没入してみてほしい一冊。このシリーズは「長いお別れ」「プレイバック」「さらば愛しき女よ」など名作揃い。そちらも是非、手に取って欲しい!

 

3『アンダー・ユア・ベッド』 大石圭

 

 

<あらすじ>

三十年間誰にも顧みられず、存在を忘れられ、名前も呼ばれることもなかった孤独な青年。彼はある日突然、一人の女性を思い出す。ただ一度だけコーヒーを飲み、唯一自分の名前を呼んでくれた彼女。鬱積した感情の爆発か、あるいはすでに狂っていたのか。青年は現在の彼女の住所を探し出す。

しかし、久しぶりに目にした彼女は、夫のDVに怯え、かつての輝くような美しさを失い疲れ切っていた。原因は夫のDVだった。彼女を助けたい。なんとかしてあげたい。青年は何かに導かれるように家に侵入し、そっとベッドの下に隠れるのだった。

日々繰り返される過激なDV。殴られ、もてあそばれ、謝りながらもひたすらに耐える彼女。そのわずか80cm下、ベッドを挟んでそれを見守る狂った純愛。

誰かが家にいることに違和感を感じつつ、何故か安堵感を覚え始める彼女。やがて青年はベッドから這い出て、ついに行動を起こすのだが……。

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主人公はベッドの下に隠れる異常な変態ストーカー。普通ならばそれが気持ち悪く、怖いという話なのに、そこにさらにいかれたDV夫が絡むことで、関係性が逆転する。読み進めるうちに、何故かストーカーを応援したくなる、不思議な物語です。

DVの描写が過激で生々しく、ともすればストーカーをヒロイックに描いているために、正直読み手を選ぶかもしれません。が、物語後半は掛け値なしに爽快で、設定の異常さを忘れてしまうほど。ホラーなのに純愛物と評判の作品です。

未視聴ですが、映画化もされており、こちらも不気味で、美しい作品になっているとのこと。原作を読んで、映画を観て、比べてみるのも面白いかも!

 

 

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