Vol.48 人生は山あり谷あり階段あり? 摩訶不思議階段譚。
何度か書いていますが、日中は配達の仕事をしています。その際苦労するのが、重い荷物を持っての階段の上り下り。30㎏近いお米を担いで5階まで上がる、なんてほぼ修行です。たった一個の荷物の配達で息は上がり、足はガクガク。運動不足を痛感するアラフォー・ライターのタラです。
ということで今回のテーマは、我ら配達員の天敵でもある「階段」です。1万段以上ある世界最長の階段とは? 作り方が分からない不思議な階段がある? 階段にまつわるあれこれをたっぷりとご紹介したいと思います。
いきなり愚痴で始めるのは恐縮ですが、もう少し配達員の苦労を吐き出させてください。
重い荷物を持っての階段の上り下りも一回や二回ならばまだ頑張れるのです。問題はいざ5階に辿り着いて、お客さんが不在だったとき。絶望しかありません。
荷物を乱暴に扱ったり、暴言を吐きまくる監視カメラ映像がニュースなどで取り上げられますが、正直気持ちはわかる部分もあります(僕はやったことありませんよ)。自分で頼んだのに……と恨み言を思ったことがない配達員はいないでしょう。
さらに、僕の配達区域には10棟以上で構成されている公営住宅群があります。公営住宅の特徴なのか定かではありませんが、棟内で横の移動ができない場合が多いのです。分かりづらいですが、つまりこんな感じ。
図は2階ですが、実際は4階でも5階でもこの造りなわけです。501号室に米を持って配達し、一度階段を下りて、今度は504号室に通じる階段をのぼり直す、ということです。
そして、これが10棟以上あるわけでして。上って下りて、上って下りて、また上って下りて……。もうこの区域だけで力尽きます。せめてエレベーターがあれば、と思わない日はありません。
ちなみにエレベーターの設置義務は「高さ31m」を超える建物であること。この31mというのがだいたい6階建て以下が目安だそう。確かに僕が配達している公営団地、6階建てというのは一つもありません。
ただエレベーターに関しては階数ではなく、あくまで基準は高さなので、例えば3階建ての低層マンションでもエレベーターがある物件はありますし、逆に10階建てでも31mを超えなければエレベーターがなくても法律上は問題ないとなります。まあ10階建てで31m未満となると、一階層の高さが確保できないのでありえないのですが。
新米が獲れる時期や引っ越しシーズンは重い荷物が増え、それがまた季節物のため重なることもしばしば。これが配達員を苦しめるのです。
いささか熱が入り過ぎてしまいました。気を取り直して、階段のあんな話こんな話。
我が静岡県が誇る「階段」と言えば、「いちいちごくろうさん(1159段)」で有名な久能山東照宮でしょう。今はロープウェイが開通して階段を上らなくても本宮へとアクセスできるようになっていますが、この石段を行くルートが正式な表参道。それゆえ、東照宮に勤める神職の方たちは毎日この階段を使って出勤しているとのこと。
僕も何度かこの1159段を上ったことがありますが、上り切れないことはありませんが、流石に毎日となると……考えただけでもゾッとします。ここはまさに神に続く道。一段一段踏みしめることで、身も心も清め、鍛えるということなのでしょう。さすが神様に仕える神職の方々です。
ちなみに日本一長い石段は、熊本県の「釈迦院御坂遊歩道」で何と3333段。その全長は2.9㎞。途中にトイレや休憩所も設置されていて、特に運動もしていない一般人が上るとなると3時間くらいはかかるそう。本宮への荷物配達、どうしているのだろう、といらぬ心配が頭をかすめてしまいます。
3333段も気の遠くなるような長さですが、世界のスケールは桁外れ。ギネスブックに認定されている「世界一長い階段」、その段数はドンっと大台を越えて11674段! 釈迦院御坂遊歩道の約3倍。それがスイスのニーゼン山岳鉄道の線路沿いに組まれている通称「ニーゼン階段」です。全長約3.2㎞、標高差約1.7㎞を誇る、まさにモンスター。
しかし、幸か不幸かこの階段、一般的には使えません。すぐ横に鉄道があるのでわざわざ階段を使う必要はないのですが、そこに階段がある以上、上ってみたいという物好きさんが世界にはいるわけで。ということで、この11674段を一気に駆け上がるという狂気じみたイベントが年に一回開催されているそう。
11674段というのがいまいち想像できませんが、どうやら勾配率が平均でも50%以上とのこと。単純計算すれば100m先で50m程度上昇することになるので(多分)、イメージ的にはほぼ垂直にのぼる感覚に陥りそう。遊びで挑戦する代物ではありませんね。
それでも興味のある方は、ニーゼン鉄道のHPをご参照ください。
(引用:https://www.niesen.ch/)
お次はちょっと不思議な階段をご紹介。まずは下図、二枚の螺旋階段の写真をご覧ください。違い、わかりますか?
一見すると共に単なる螺旋階段ですが、右側の写真、おかしな点に気が付きませんか? 通常、螺旋階段を作る場合、中心に主柱パイプを配置し放射状で段違いにはね出した踏み板を設置していきます。左図がそうですよね。
しかし右の螺旋階段、中心の支柱がないのです。太い丸太をこの形にそのまま切り出したような構造。一体全体どうやって屹立しているのでしょうか。
高さは約6.7メートル、計33段のこの階段は1階と2階聖歌隊席を繋ぐように立っています。そして鉄くぎや接着剤などの使用跡がなく、全重量が純粋に床のみで支えられているそう。
オブジェとしてならばありえますが、20人程度が同時に利用しても平気な造りだとのこと(現在は保護のため使用不可)。長年、多くの研究者がこの構造の謎に挑んできましたが、いまだに真相には辿り着かず。まさに「奇跡の階段」なのです。
この階段があるのはアメリカはニューメキシコ州、サンタフェにあるロレット・チャペルという教会。そして、この階段誕生にはまさに奇跡じみた逸話が残っています。
時は遡り、1873年。まさに完成間近を迎えていたロレット・チャペル。とここで、1階と2階聖歌隊席を繋ぐ階段を作り忘れるというまさかの事態が。今から階段を設置するとなると、教会全体の作り直しが必要になる。途方に暮れたシスターたちは九日間に渡り、ひたすらに神に祈る捧げた。
するとそこに「私が階段を作りましょう」という白髪の男性が現れる。その男性が持っているのは、のこぎりとT字定規、ハンマーだけのわずかな道具だけ。しかもたった一人だった。
心配は杞憂に終わり、数日後に見事に階段は完成した。そして、男は煙のように消えてしまった。八方手を尽くして男性を探すも、結局男性が見つかることはなかった……。
いささか寓話めいていますが、こんな話がまことしやかに語り継がれるほど、この螺旋階段は謎に包まれているということなのかもしれません。
最後に少しだけ語学の勉強をしましょう。
直進でもかね折れでも螺旋で折り返しでも、日本では階段は階段です。種類や用途はいろいろあっても、総じて「階段」と呼びます。
一方、英語では階段を表現する単語は複数あって、その用途によって使い分けるのです。
もっとも一般的なのは「stairs」。これは屋内にある階段のことで、家にある階段は「stairs」を使います。
逆に屋外、特に短い階段や、公園や建物入口にある数段しかない階段を指す場合は「steps」を使います。例えば縁側から庭に出る際のブロックの段差。日本語ではそれを階段とは言いませんが、英語ならば「steps」としても意味は通じます。
そして最後は「staircase」。あまり馴染みがないかもしれませんが、これはフォーマルな状況に使います。装飾的に凝っていたり、構造的に特徴がある場合など、「staircase」を使用します。例としては美術館や公的建造物の中にある壮麗な階段を表わす場合です。
まあ「stairs」で通じないこともないのでしょうが、ちょっとした雑学として覚えておいても損はない……かもしれませんね。
階段の上り下りは疲れます。ということは、つまり、それは運動しているということ。例え一階層分だとしても階段を使うことで、心筋梗塞や脳卒中の健康リスクを軽減できるというデータもあるそう。
エレベーターが中々来ない、とイライラしながら待っているくらいなら、階段を使って目的階に行く習慣を持つのもいいかもしれません。
と思っても、ついつい楽をしてしまうのですが。