Vol.51 その便利さは古代人お墨付き? エレベーター奇譚
当コーナーとして三度目の“夏”到来。思えば三年も連載を続けさせてもらえるなんて、世知辛いご時世にあって、何ともありがたいことです。日々、様々なことに感謝を忘れぬよう、真っ当に生きたいと奮闘しているライターのタラです。
さて、どんな家庭にも使わないもの、無駄なものの一つや二つあることでしょう。我が家は無駄なモノだらけなのですが、その中でもとりわけ「無用の長物」となっているのが“エレベーター”。単なる物置と化しており、ほとんど動かしません。もったいない。
ということで、今回のテーマはエレベーター。普段、当たり前に使っているエレベーターの四方山話。どうぞお付き合いください。
まずはこちらをご覧ください。
薄汚れた扉。怪しさ満点ですが、これが我が家のエレベーターです。この汚れからもお分かりの通り、もう長い事動かしていません。扉を開けて中を写そうと思ったのですが、起動するための鍵がどこにあるかわからず。外観だけとなってしまいました。
そもそも何故普通の家にエレベーターなど設置されているのか、そこが疑問かと思います。元は介護のためでした。
20数年前、家が火事になったことは、以前も当コラムで書いたと思います。その当時、我が家には痴呆症を患っている祖母がおりました。基本は祖父が付きっ切りで介護をし、日々の面倒を見ていたのです。火事になったのはそんな時。
幸い、怪我人死人は出なかったのですが、家は全焼。住める状態ではなく、近所のアパートにて間借り生活を余儀なくされました。しかし狭いアパート。祖母の介護をするのは流石に厳しく、一旦施設で面倒を見てもらうことになったのです。
いざ家を建て直す段になり、祖父は祖母を自宅で介護することを主張しました。面倒は自分が全部見ると言ったのです。そうなると、恐らく車椅子が必須となるだろうと言うことで、我が家は基本バリアフリー。そして1階と2階の移動のためにエレベーターを設置することになったのです。祖父の男らしいエピソードなのですが、好事魔多し。
祖母は火事のショックで体調を壊し、痴呆症も一気に進行。寝たきり状態になってしまい、新居に戻ってくることはありませんでした。
結局、祖母がこのエレベーターを使うことはついぞなく。引っ越し時の荷物運搬に使った程度で、以降は物置代わりになってしまいました。ろくにメンテナンスもせず、設置から20年以上経過しているため、いまは動きません。
正直、エレベーターを設置するのに300万程度かかったそう。もったいないから直そうかと調べたら、これまた高額な修理費が必要。結局、放置するしかなかったのです。
地元で最も高いタワーマンションに住んでいる友人。彼の部屋は17階。当然行くにはエレベーターを使います。しかしそこは最高級のセキュリティマンション。外部の人間がこっそり侵入してもエレベーターを動かすことができません。インターフォンで呼び出し、住人にロックを解除してもらう必要があります。すると数分間エレベーターの扉がオープン。しかも目的階以外のボタンは押せない仕組みです。ただ移動するだけでなく、防犯面でもエレベータ―進化の目まぐるしさを実感します。
では、そんなエレベータ―の始まり、いつ頃だと思いますか? 100年前? 18世紀の産業革命期? ダ・ヴィンチみたいな天才なら原型になる仕組みを考えていても不思議じゃない? いえいえ、そんなものじゃないんです。
滑車とロープを使って上げ下ろしをするエレベータ―の起源らしきものは、何と紀元前236年頃、古代ローマ時代には使われていたという記録が! 考案者は、浮力の発見や正確な円周率を求めたことで有名な超天才的科学者アルキメデスと言われています。
無論、動力は人力。主には荷物の運搬に使われていたそうです。この便利さは当然、物の運搬だけでなく人を乗せる目的を求められます。しかし、動力としての「電力」が生まれるのは遥か未来。1769年の蒸気機関の登場を待つこととなります。ざっと2000年ほどの時間がかかったことになります。
電力で動くと言っても、当時のエレベータ―は安全の概念などなく、事故が多発したとか。そこからさらに様々な改良、安全面の技術革新、新技術の発見導入により、やっと近代エレベーターの原型が生まれたのが1900年頃。
プロトタイプが生まれてから気の遠くなるような年月を経て現在の形となり、そこに付与される便利な機能やセキュリティ技術に関してはここ100年くらいの進歩でしかないのです。
面白いことに、同じ昇降装置に分類されるエスカレーターの歴史はビックリするくらい浅かったりします。世に登場したのは1900年前後と言われているので、誕生して100年ちょっと。それもほぼ現代の構造とほぼ同じで、こちらは意外に変化や進化がない? いつかまたエスカレーターのネタも拾ってみたいとは思っています。
ではここで、僕が体験したエレベーターのちょっと怖い話。
僕は15年ほど前、バックパッカーをやって世界を放浪しておりました。その際、東欧のハンガリーに滞在した時のこと。
資金もなく、基本は安い宿を使っていました。安いということは当然、設備面や衛生面に少々難があるわけで。部屋の鍵がかからない、シーツが虫まみれ、シャワーが熱湯か冷水しか出ない……まあ色々ありました。
ハンガリーで泊まった宿も例に漏れず古い建物。しかし一丁前にエレベーターが設置されていました。泊まった部屋が3階だか4階だったので、これはありがたい。
しかしそのエレベーター。何と、扉を手動で開ける仕組みだったのです。日本ではお目にかかったことがないシロモノ。果たしてやり方があっているのかどうか。隙間に無理やり手を突っ込む意外に方法がわかりません。とりあえず扉は開き、一応稼働はしました。
静かで速い日本式に慣れていたせいか、昇降時にどこからともなく聞こえてくるギィギィという異音。進んでいるのか不安になる低速。かなり不安な造りです。
数日後、買い物に出かけて、僕は大量の荷物を持っていました。階段で部屋まで行くのは面倒くさい。多少の怖さを感じつつ、仕方がなくエレベーターを使うことにしました。
部屋の階のボタンを押すと、軽いGがかかり、ノラリクラリと上昇……と思いきや、何と途中で停止してしまったのです。当時の日記を参考にするとこんな感じ。
これには焦りました。どのボタンを押しても無反応。日本でよく見かける外部通信できる電話もなし。せいぜい2m程度の高さとは言え、ゴンドラと一緒に落ちたら無事ではすみません。僕は必死で中から扉を叩き、助けを呼びました。しかし朝早かったこともあり、助けは来ません。
手動扉だから無理やり開けようとしましたが、何故かビクともしない。どうやらフロアにて何かしらセンサーを感知しないと開かない仕組みらしく。そんな所だけ無駄にハイテク。
本気で命の危険を感じて途方に暮れていると、再び突然上昇し始めました。助かったと思う反面、さらに高い場所で停止しないことを祈りつつ、何事もなく目的階に到着しました。
止まった原因も、再び動いた理由もわからない。管理人やコンシェルジュなどおらず、尋ねる相手もいない。結局、その後は一度もエレベーターを使うことはありませんでした。
※問題のエレベーター。こんなタイプ、日本では見たことがない。
最後に、これは悪用厳禁ではありますが、緊急時には役立つかもしれないエレベーターの裏技をご紹介します。もしかして知っているかも?
まずは目的階を間違えた際の取消方法。
最もオーソドックスのリセット方法は「キャンセルしたい階数のボタンを2回押す」というもの。メーカーや型式によってはキャンセルできない物もありますが、基本はこれで取り消せるはずです。
また「キャンセルしたい階数のボタンを長押しする」という方法も。どちらかの方法でだいたい取り消せるはず。これで出来ない場合は、キャンセル機能がそもそもないか、あるいは特殊な仕様になっている場合があるのでご注意ください。
もう一つは、目的階まで途中で停止することなくノンストップで行く裏技。
目的階と閉じるボタンを同時に押すことで、直通運転モードにすることができます。また、エレベーター移動中に「閉」ボタンを押しっぱなしにしても、同様に途中階をスキップすることができるそうです。
ただし、これは他の階で待っている人をスルーすることなので、むやみやたらに使うべからず。万が一の、緊急手段だと思ってください。
※先述した通り、メーカーや型式によって、これら操作が効かない場合もありますので、あしからず。