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Vol.17 作るのは料理だけじゃない。変わりゆく台所事情。

昔、居酒屋の厨房で働いていました。フライやちょっとした焼き物を担当し、煮物の味付けなども勉強しました。誰も信じてくれませんが、実は料理はそこそこ得意だったりするのです。最近の得意料理はカップラーメン。どうも、貧乏舌ライターのタラです。

今回は暮らしにおいて欠かすことのできない「食」をつかさどる重要な場所、キッチンにフォーカス。男子厨房に入らずは、もう古い? さて、そろそろ料理開始です。


家を建て直す前のことです。当時の家は、台所が下足でした。以前書きましたが、我が家はおもちゃ屋です(それは今も昔も同じ)。店舗入り口が玄関で、そのまま店舗を抜けると居住スペースになっており、その途中に台所スペースがあったのです。イメージしづらいかもしれませんが、店舗~台所までが下足、台所の脇に土間があり、そこで靴を脱いで居間に行く感じです。料理屋でもないのに下足とは。ギリギリ平成の話ですよ。

何故にそんな造りになったのか詳細はわかりませんが、どうやら増築増築を繰り返した結果だとか。台所から居間まで結構距離があり、料理を運ぶのもさぞ面倒だっただろうなと思います。

下足故なのか、単純に家が古かったのか、掃除が行き届いていないのか、料理を作る場所とは思えないほど汚れていました。そして子供にとっては少し怖い場所でもあったのです。

ある日、夜中に妙に喉が渇いたので何か飲もうと台所に向かいました。みんな寝ており、真っ暗です。手探りで電気のスイッチを探し、パチッと電気を点した瞬間。ガスコンロの脇からササっと黒いモノが出てくるのが目に入りました。みんなが大嫌いなあの虫。そう、ゴキブリです。絶句しました。もう恐ろしくて、台所を進めません。水を諦めて、部屋に戻ったのでした。

 

家を建て替える際、「絶対に対面キッチンにしてほしい」と、他には何も言わなかった母が断固として熱望したそうです。その甲斐あってか、現在の家は一応、対面キッチンになっています。ただフルオープンではなく、リビングとキッチンの間に壁はあり、その一部を窓のようにくりぬいて、何とか対面風にしている感じ。正直、使い勝手はよくないです。

 

※恥ずかしながら、我が家のキッチンの様子。この窓、使い勝手がイマイチ。

 

さて、僕も上項目で無意識的に「台所」から「キッチン」と書き換えていますが、何が違うのでしょうか。調べてみると、本質的には同じ意味。室内で食材を調理するために設けられたスペースです。キッチンは西欧風・現代風の調理スペースに加えて、家族が集まって食事をする場所(ダイニング)というニュアンスも含むことが多いようです。

一方、台所は日本の伝統的な竈や土間があるものに限った呼称になりつつあるそう。

ちなみに、かつて台所はだいたいが家の北側の、陽の当たらない薄暗い一角にあるのが主流でした。台所は隠すべき場所だとか、料理する人(当時は主に主婦)は奥で仕事をするのが当たり前という風潮だった(なかったとは言いませんが)わけではなく、一番は食品の保存のため。

現代では食品は冷蔵庫で保存するのが当たり前ですが、当時(昭和初期)にはそんな設備があるわけもなく。日光を避け、食品の腐敗を少しでも遅らせようという工夫だったと考えられています。今では配置も広さも形も機能も、好きなようにキッチンスペースが造れます。何よりも、それまで孤立し食事を作るだけの場所から、家族が集まって食事を楽しむダイニングキッチンへ。さらには生活そのものの中心であるリビングをも共有したLDKスタイルへ。家の中にあって、機能と共に重要性においてもっとも劇的な変化があったのは「台所」なのかもしれませんね。

 

 

台所からキッチンへと進化した調理スペース。設備が整った次の一歩は、当然使いやすさへと向かいます。我が家を例に出せば、調理したものをすぐに渡せるようにと窓があるわけです。あまり窓を使って、料理の受け渡しはしませんが……。

もし今から家を建てるとしたら、どんなキッチンにしようか。スペースを考えて、オーソドックスなI型? 家族で料理したいから広々としたL型? ホームパーティもできちゃうオシャレなアイランド型? 夢や理想を考えるも大事です。しかし、忘れてはいけないのは、日々料理する中で動きやすく、ストレスフリーで使える場所かどうか。どんなにオシャレだとしても、何かするたびにコレを動かして、誰かとすれ違うたびにぶつかって……みたいなキッチンでは本末転倒。

結局肝心なのは、冷蔵庫から食材を取り出し、シンクで洗ったり切ったりし、コンロで煮るなり焼くなり。そして、それをテーブルへと運ぶ、という基本動作だったりします。この「冷蔵庫」「シンク」「コンロ」の三つをつなぐ動きを「ワークトライアングル」といい、この三つの機器を上手に配置すると使いやすいキッチンになるのです。

 

 

これは冷蔵庫、シンク、コンロのそれぞれの中心からの理想距離を示したもので、三辺の合計が360cm以上600cm以下が適当とされています。近すぎても動きづらいし、長すぎると無駄な動きが多くなり、疲れる要因にもなってしまいます。また正三角形に近ければ近いほど利便性は上がると言います。

動線的に見れば、コンロとシンクが別々になっているセパレート型、冷蔵庫~シンク~コンロ~作業台がUの形になっているU型が比較的理想の配置にしやすいそうです。

 

 

無論、これは統計の理想値ではあります。この数値にとらわれる必要はなく、あくまで自分の動きを想像するのが大事。例えば冷蔵庫。利用者の多くが右利きであることから、圧倒的に「右開き」が多いです。それを考えると、冷蔵庫はシンクの右手側にあった方が使いやすいはず。逆に配置すると、扉を開けた際に扉が手前に来るので、わざわざ回り込まなければなりません(ちょっと分かりづらいかも……)。

 

 

何度も我が家の恥を語るのも何ですが、まさにこのパターン。料理中に冷蔵庫を開けるともろに手前に扉が来るので、非常に使いづらいのです。家を建てたとき、何故にこの配置にしたのだろう。せめて両開きの冷蔵庫ならば、もう少し使いやすかったのに……。

 

この原稿を書いている現在、深夜一時半過ぎ。嗚呼、お腹がすいてきた。こんな時間に飯を食べることに罪悪感を覚えつつ、カップラーメン片手にコンロで湯を沸かすのでした。

それでは、いただきます。

 

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