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Vol.34 Windows 23? ちょっと真面目な窓の話。

更新が滞ってしまって申し訳ございませんでした。少々体調を崩しており、お休みをいただいていました。やっと体調も戻り、これからまた頑張ろうと思います。ライターのタラです。

さて、いよいよ梅雨シーズン。冷房をつけるにはまだ早いので、風を入れるために部屋の窓を開けていることが多いのですが、雨が多いと開けっ放しにするわけにもいかず、夜は少々寝苦しかったりします。

ということで、今回は『窓』にまつわるエトセトラ。専門的な話も交えながら、窓を考えてみようと思います。


小学五年生の頃ことです。放課後、友人と遊ぶ約束をしていました。公園で待ち合わせ、キャッチボールか何かをしたあと、新しいゲームソフトを買ったからやろうと、その友人宅へ。二階建ての一軒家です。

家の人が留守で玄関には鍵がかかっていました。「あっ!」友人が珍しく大きな声を出しました。ポケットを探し、持っていたバッグの中身を地面にぶちまけます。

「鍵が……ない」

携帯電話もない時代。僕らは途方にくれました。ゲームがやれないこと自体は構いません。公園に戻って遊び直せばいい。問題はそのあと。家人がいつ帰ってくるか分からないわけで、その友人は当てもなく待つことになってしまうのです。

どこかの窓が開いていないか敷地をぐるっと調べましたが、一階の窓はすべて施錠済み。諦めかけて二階を見上げると、少しだけ開いている窓が……。トイレの窓でした。大きさ的にも子供なら通れそう。問題はどうやってあそこまで行くか、です。

友人が挑戦しましたが、どうにも届きそうにありません。僕の方が友人より背は高かったのですが、流石に外壁をよじ登って、他人の家のトイレの窓から侵入することには抵抗が。しかし友人は「見張っているから」と、僕に昇るように促しました。塀を伝い、軒に上がり、ベランダの手すりをほぼ腕の力だけで伝って、何とか二階トイレの窓から入ることができました。

玄関に降り、鍵を開けて、ドアを開けると、ちょうど友人の母が帰宅。慌てて事情を説明するも、当然怒られました。家に入ったことではなく、危険な真似をしたことを、です。

落ちたら軽傷では済まなかったでしょう。下手したら命も……。

今思えばゾッとします。しかし、あの時の友人の「スゲー」という声援と感嘆の眼差し。子供ながら「どんなもんだい」と鼻高々だった記憶があります。

二階トイレの小さな窓は、もしかしたら少年が少し背伸びして通った「思春期の入口」だったのかも……なんていささか感傷的でしょうか。

今やったら問題になりそうな、古き良き時代のお話です。

 

 

さて、昔話はこれくらいにして、タイトルにある「ちょっと真面目」な窓の話。

普段、私たちが目にし、利用している「窓」は、厳密に言えば「窓」ではありません。現代国語辞典(学研)によると「窓」とは……

  • 採光・換気・展望などのために壁や天井に設けられた『開口部』

とあります。開口部、つまり穴そのもののことです。

しかし、塞ぐものが何もない構造では不便。雨だろうが埃だろうがゴミだろうが昆虫だろうが寒風だろうが、入り放題。防犯面を考えれば、泥棒や不審者の闖入を誘発する恐れもあります。

仮に、現代の住宅においてポッカリと穴が開いていたら、それは単なる欠陥住宅。窓枠があり、サッシがあり、ガラスがはめ込まれており、用途に応じて開閉できるのが当たり前です。

言葉尻を取って「窓は厳密には窓ではない」などと捻くれたことを書きましたが、今では「開口部に設置される可動型もしくははめ込み型の建具」のことを広義で「窓」と言うのが一般的になっています。少々、回りくどかったですかね、すいません。

 

 

一口に窓と言っても、適当に作ればいいわけではありません。居室には一定面積以上の開口部(窓など)を設置しなければならないと、建築基準法によって細かく定められています。例えば、採光に関しては、居室には「採光が確保できる窓の面積を部屋の床面積の7分の1以上設けなければならない」とあり、それを満たさない部屋は「無窓居室」扱い。この場合、さらに消防法も関わってきて、避難や消火活動がしにくい構造とみなされ、屋内消火栓やスプリンクラー等の設備の設置基準が厳しくなったりもするのです。

そしてもう一つ、クリアしなければならないことがあります。それが「省エネ基準」です。これは、建築物の使用によって消費されるエネルギー量に基づく性能評価基準のこと。端的に言えば、環境に優しい、エコな建物を作りましょう、という指針です。1980年に制定されて以降、幾度となく基準は見直され、より細かく、より厳密なものとなっています。

 

では、ご自宅の窓を見てください。どんな形状でしょうか。ちなみに我が家の窓は、アルミの枠に一重ガラスのサッシ。日本でもっとも多い型だと言われています。

 

しかしこの窓、他国だと違法で使えない可能性があるのです。

以下のグラフをご覧ください。

 

 

住宅で熱の出入りがもっとも多いのが窓(開口部)。概算値では、冬の場合は窓50%、外壁12%、屋根5%の割合で部屋の暖気が外へ逃げ、逆に夏の場合は窓75%、外壁12%、屋根5%の割合で外気の熱が入ってくると言われています。つまり、暑さ寒さも窓次第、ということ。

ここで、もう少しだけ専門的な話。窓の断熱性はU値(熱還流率)という指標で表わされます。ちなみに、熱還流率とは室内外の温度差を1℃とした時、窓ガラス1㎡あたりに対して、1時間の間にどれだけ熱が通過するか、その数値のことです。まあ難しいことはさておき、この値が小さければ断熱性は高く、大きいほど断熱性が低くなる、とご理解ください。

 

そして上図。これは各国ごとに設けられている窓の断熱性能の最低基準値のリストです(前述した通り、窓はサッシやフレーム、そしてガラスなどで構成されており、断熱性能はその組み合わせで算出されます)。

環境大国フィンランドやドイツを筆頭に、お隣の韓国、中国にいたるまで、窓の断熱にはかなり厳しい基準が設定されてます。

あれ、日本は? 驚くべきことに最低基準は設けられていません。冬の平均気温が10℃を下回る地域の住宅への「推奨値」は定義されていますが、あくまで推奨レベルに留まっています。

東北・北海道:2.33

関東・内陸:3.49

関東以南の地域:4.56

ちなみに我が家の場合。アルミの枠に一重ガラスのサッシだと、単純計算でU値は6.5。これは諸外国では物置にも使わないレベルだとか……。

また、日本サッシ協会は窓の断熱性能に関してランク付けを行っており、U値=2.33で、その最高等級の☆4が与えられています。しかし上図でもわかるように、U値2.33ではフィンランドやドイツでは最低基準を満たしていないため、使うことはできないのです。

 

 

世界のスタンダードから大きく遅れている日本の窓。

いま、世界の窓の主流は樹脂サッシです。アルミサッシの熱伝導率を1とした場合、樹脂サッシはその約1000分の1と圧倒的な断熱性能があるとも言われ、結露も発生しづらいため掃除やメンテナンスの手間も省けるスグレモノ。ただ、残念ながら日本での普及率はわずか7%程度で、他国に大きく水をあけられているのが現状です(世界の窓の断熱事情もいずれは紹介したいと思っています)。

とは言え、一朝一夕で窓の断熱性能を向上させることはできません。インテリアを変えたり、新しい家具を買うのとはわけが違います。それなりに時間も費用もかかります。

だから、ちょっとだけ心に留めておいて欲しいのです。もし今後、家を建てたり、リフォームする機会があったのならば、外観や間取りの次でもいい。窓のことも考えてみてください。

新時代の住宅は、窓からはじまる……かも?

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