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Vol.38 いつものあの部屋で何が? 家の中で起こる物語4選。

最近疲れているからなのか、横になりながら読書をしていると数ページで寝落ち。通勤中の電車でも気が付くと寝ていて、何度か本を落としました。一冊読み終えるのに何日かかるのでしょう。読書ペースが落ち気味のライター、タラです。

さて、読書に季節は関係ない! ということで読書の秋には少し早いですが、筆者の中で大好評の小説紹介シリーズ第五弾。今回も捻り出しました。テーマは、どの家にも普通にある部屋や空間が舞台となっている小説。書斎が、トイレが、屋根裏が! 事件は会議室で起きているんじゃない。家で起きているんだ! それではどうぞ~。

 


 

1『二階の王』

名梁和泉

 

 

<あらすじ>

主人公・朋子の悩みは、二階の自室で引きこもり生活を続ける兄。会話どころか、顔を合わせることすら拒絶され、ただその存在を示すかのように禍々しい音楽だけが部屋から聞こえてくる。兄は今何を考えているのか。これから私たちはどうなるのか。終わらない地獄に鬱々とした日々を過ごしていた。

一方、世界の命運を握る“悪因”なるものを探索する謎の集団。彼らは特殊能力を用い、日常に潜む悪因を調査、対峙していた。全くベクトルの異なる二つの物語が、少しずつ交錯していく。果たして二階に潜む兄は、本当に兄なのか?

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端的に説明するのが非常に難しい作品。引きこもりという現実的な問題と、悪因という非現実な存在。ホラー的でありミステリー的でありSF的であり神話的でもある。

余談にはなるが、創作物で扱われる「引きこもり」は二階の部屋が多い。一階に引きこもっているという話をあまり知らない。同じ屋根の下に暮らす中で、玄関がある一階は外との繋がりがある場所。二階はそこから物理的な距離がある。その距離が、心的な距離を表わすのに適しているのかなぁ。本作とは関係ない話ではあるが。

 

 

2『書斎の死体』

アガサ・クリスティー

 

 

<あらすじ>

「書斎に死体があるんです」召使のそんな頓狂な報告で、老婦人のいつもの平穏な朝が一変した。かけつけてみると、確かにそこには見知らぬ若い女性の絞殺体が。昨夜の夜にはなかった。一体どうやって? 何故ここに? そもそもこの女性は誰……? 突然降りかかった災厄、そして家族への疑念を晴らすため、探偵好きの友人であるマープル嬢に助けを求めるのだった。

さっそく捜査に乗り出すも、第二の殺人が起こり、事件はますます混迷を極める。謎に次ぐ謎。やがて明かされる真実とは?

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ミステリーの女王・アガサ・クリスティが生んだ名探偵マープルが活躍する人気シリーズ。「書斎にころがる死体」というありふれた設定を材料にしながら、それを飽きさせない展開で紡いでいくのは流石のひとこと。

クリスティの探偵といえばもう一人、ポアロがいる。あちらは探偵業を生業としている本物に対し、マープルは隠居のおばあさん。その普通の目線がまた醍醐味でもある。翻訳物ゆえにそれだけで敬遠する方も多いと思うが、そこは流石世界的ベストセラー。読みやすいので、翻訳物に慣れていない人にもオススメです。

 

 

3『屋根裏の散歩者』

江戸川乱歩

 

 

<あらすじ>

定職にもつかず、自堕落な生活を送っている郷田三郎。ふとした縁があって探偵をしている明智小五郎と出会い、さまざまな犯罪話を聞くうちに、犯罪そのものに興味を持つ。最初はケチな悪戯紛いのことから手を出すも、欲望が増長するに時間はかからなかった。押し入れの天板が外れることを見つけると、彼は下宿の屋根裏を徘徊。住人の生活を覗き始めるのだった。やがてその狂気は最高潮に達し、気に入らない下宿人を殺害したいという欲求へと膨らむのだった。そして、郷田が選んだその殺害方法とは……?

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怪奇小説作家、江戸川乱歩の短編。何度も映像化されている人気作品です。今でこそ屋根裏に潜む、移動するなんてのは結構ベタなギミックですが、本作がかかれた大正14年当時は、さぞショッキングなトリックだったのでは、と想像します。

そもそも乱歩自身が仕事をさぼって屋根裏を徘徊したという実体験がベースになっているそうで。どんなことでもアイデアになりえるのだなぁと僕自身は感心するのでした。

 

 

4『トイレのピエタ』

松永大司

 

 

<あらすじ>

画家を目指していたが諦め、窓拭きのバイトをしながら生活する青年・宏。ある日倒れ、病院で検査を受けると、告げられたのは「余命三か月」という事実。そんな折、偶然出会った女子高生の真衣から「今から一緒に死んじゃおうか?」と持ちかけられる。感情むき出しの真衣に翻弄され、時にぶつかりながら、宏は生きる意味を、諦めた夢を取り戻していく。病気の青年と死にたがりの女子高生が織りなす、最後の夏の物語。

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原案になっているのは、漫画の神様・手塚治虫が亡くなる直前まで日記に記していたアイデア群。実質的には最後の手塚作品とも言える。それが漫画ではなく映画であり、小説というのも妙なものだが。

そして恐らく、この作品は小説を読むよりも映画を観た方が良いかもしれない。ロック・バンド・RADWIMPSのVo.&Gを担当する野田洋次郎が初主演を務めた他、ヒロインに杉咲花、リリー・フランキー、宮沢りえ、大竹しのぶら豪華俳優陣が脇を固める。

当然、主題歌もRADWIMPSが手がけており、物語に色どりを添える。

ちなみにピエタとは、死んで十字架から降ろされたキリストを抱く聖母マリアの彫刻や絵のこと。宏はどんなピエタを描くのか、是非作品本編で確かめてください。

 

 

手を変え、品を変え、あれこれ紹介してきた「小説シリーズ」も、五回目となるとなかなかどうしてテーマが難しい。今回は、家は家だけれど、あえて場所や部屋を限定した作品を集めてみました。いかがだったでしょうか?

こうして縛りを設けることで、僕自身も昔読んだ本を再読したり、知らなかった本に出会ったり、それはそれで楽しいのですが、テーマに即した本を複数見つけてくるのが意外に難儀しています。まあ趣味と実益を兼ねたネタなので、これからも継続しようとは思いますが……。

懲りずにお付き合いください。

 

 

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