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Vol.40 ハートフルからコメディまで。映画が描く家族の風景。

天文学上では秋分(9/22~23頃)から冬至(今年は12/22)までは「秋」に定義されるそう。前回も書きましたが、秋と呼ぶにはいささか寒いですが、月見でもして無理やり秋を満喫しようかと画策するライターのタラです。

さて、今回は約八か月ぶりとなる大人気?企画、映画紹介! 前回は「部屋」に焦点を当てた作品を取り上げましたが、今回はずばり「家族」がテーマ。しかもタイトルにちゃんと続柄が入っている縛り付きです。一風変わったおじいちゃんから問題だらけの弟、苦悩する父などなど、映画の中の家族は現実以上にトラブルだらけ。

スポーツや食欲、紅葉もいいですが、ゆっくり映画でも観て、秋の最後を楽しみませんか?


日本における歴代映画興行収入ランキング、一位が何かご存じでしょうか? 数年前に連日ニュースになったので覚えている人も多いかもしれませんが「鬼滅の刃」です。煉獄さんが400億の男などと騒がれていましたね。そして二位はジブリ作品の「千と千尋の神隠し」。四位「アナと雪の女王」、五位「君の名は。」、七位「もものけ姫」、八位「ONE PIECE」、そして九位が「ハウルの動く城」となっており、ベスト10中、実に七作品がアニメです。大人から子供まで楽しめるのがアニメの良さなのでしょう。

ということで一作品目に紹介するのはアニメ「カールじいさんの空飛ぶ家」です。主人公は78歳の老人、カール。彼の夢は、妻と冒険者たちの憧れである伝説の滝“パラダイス・フォール”へ行くこと。しかし必死にお金を貯め、やっと渡航チケットを手に入れた矢先、最愛の妻が病に倒れ、亡くなってしまう。

追い打ちをかけるように街の開発計画が持ち上がり、妻との思い出の家まで追い出されそうに……。一念発起、彼は妻との約束を果たすため、パラダイス・フォールを目指すことにする。その方法は、なんと10297個もの風船を結びつけて、思い出の家ごと浮かすというものだった。

こっそりと空飛ぶ家に紛れ込んでいた冒険好きの少年ラッセル、途中で出会った怪鳥ケヴィン、それを追ってきた犬語翻訳機をつけた猟犬ダグを巻き込んで、カールじいさん78歳、一世一代の大冒険が幕を開ける。

アニメ作品としては初めてカンヌ国際映画祭のオープニング作品となった本作。

風船で家ごと空を飛ぶというのは、やはりアニメーション作品ならでは。とはいえ、単なるファンタジーというだけでなく、人生いくつになってもチャレンジできる、という前向きなメッセージも込められています。笑って泣けること、間違いなし、です。

 

 

お次は、祖父から父へ。ハリウッドを代表する名優、アンソニー・ホプキンスが認知症の父を演じて話題となった「ファーザー」をご紹介。

父アンソニーに認知症の兆候が出始めているのを懸念した娘のアンは、ヘルパーを付けるように説得する。が、父はそれを断固として拒否し、ヘルパーを追い返す。アンがヘルパーを付けようとした理由、それは新しい恋人とパリで新生活をするため。それを聞いてショックを受けるアンソニー。しかし、ある時、一人の見知らぬ男が現れて「自分はアンと結婚して10年以上になる」と告げる。この男は一体誰なのだ? そして、もう一人の娘、ルーシーの姿を最近見ていない。一体どこへ行ってしまったのだろうか……。

ジャンルとしては「ヒューマン」となっているが、もしかしたらホラーと言っても過言ではないかもしれません。この映画、とある評論家は「認知症という病をVRのごとく疑似体験させる」と評しています。

何が正しくて何が間違っているのか。何が本当で何が嘘か。その認知が少しずつ不安定化していく恐怖。一発逆転もカタルシスもなく、淡々と歪んでいく。そのリアルをアンソニー・ホプキンスの名演・怪演で余すところなく描き切っています。

僕の祖母も認知症でした。久しぶりにあった僕のことを覚えていませんでした。しかし、当人の顔を見ると「忘れている」とは思っていないようで、キョトンとしていました。忘れる、失うという感覚ではなかったのかもしれません。だって、僕のことが分からないことにショックを受けていなかったからです。僕はショックでしたが。

少し道が逸れましたが、とにかく観終わった後はダメージを食らうことでしょう。重い映画です。どうぞ覚悟してご覧ください。

 

 

さてさて、みなさんは兄妹姉妹がいますか? 僕には弟がいます。比較的仲が良いとは思いますが、まあ鬱陶しいと思ったりむかついたりすることはあります。

というわけで、三作品目は問題ばかり起こす弟と、その弟を想う姉を描いた邦画「おとうと」です。寅さんシリーズでお馴染みの山田洋二監督作品。しっかり者の姉を吉永小百合が、風来坊の弟を笑福亭鶴瓶が演じるヒューマンドラマです。

姉・吟子の夫の十三回忌で酒を飲み大暴れし、親類中の顰蹙を買った弟・鉄郎。十年近く音信不通だったにも関わらず、ひょんなことから姪の結婚の報を知り、結婚式へとやってきた。親類たちは追い返そうとするが、吟子は「酒を飲ませない」ことを条件に何とか式への参加を認めさせる。が、案の定、ちょっと目を離した隙に鉄郎は酒を飲み、挙句式を滅茶苦茶にしてしまう。親類中が絶縁を叩きつける中、それでも吟子は鉄郎を庇うのだが、とあることがきっかけで、姉弟に大きな亀裂が生じてしまい……。

どんなに駄目人間、クズ人間であろうとも、簡単には見捨てられない。恐らく、こうした関係は家族特有のものでしょう。他人だったらあっさり切り捨てられるものも、家族となるとそうも行かないもの。もしかしたら、それは周りから見れば理解できず、滑稽に映るものかもしれません。

もう一つ、この作品には「結婚」も絡んできます。結婚はもちろん当人同士の問題ですが、二つの家族間の問題でもあります。トラブルメイカーがいる家族と親族になるのは是か非か? そんなシビアな現実も描かれます。

家族とは何か。結婚とは何か。ちょっと考えさせられる映画です。

 

 

祖父、父、弟と血縁関係が続いてきたところで、最後は変化球。将来の家族、つまりは結婚相手がテーマになっているロマンティック・コメディ「あなたは私の婿になる」です。

とは言え、描かれるのは単なる結婚ではありません。ずばり偽装結婚。

私たち日本人がもしアメリカで働こうとする場合、就労ビザというものが必要になります。細かい条件等は割愛しますが、これをきちんと申請しないと最悪入国禁止の措置を取られる場合も。

本作の主人公、マーガレットはニューヨークで働くカナダ人。当然、働くには就労ビザが必要。しかし彼女、仕事を優先するあまりビザの申請を忘れてしまう。そんな彼女に言い渡されたのは一年間のアメリカ入国禁止令。彼女にとっては仕事が全て。このままでは大切なキャリアが消えてしまう。そこでマーガレットが考えたのは、偶然その場に居合わせた部下のアンドリューと結婚をしてアメリカの市民権を得るというウルトラCだった。困惑するアンドリューを何とか言いくるめるも、周囲からは偽装結婚ではないかと疑われる。

当初は市民権を得るため、キャリアのために演じていたマーガレットだが、次第にアンドリューの人柄に惹かれはじめ、自分勝手な偽装結婚に巻き込んでしまったことに罪悪感を覚え始めて……。

嘘から始まるラブストーリー。王道と言えば王道です。が、それを飽きさせないのは、流石アカデミー賞女優のサンドラ・ブロック。嫌味で高飛車な上司、予想外の展開におろおろする独身女、そして恋に落ちる一人の女性を見事に演じています。

ほっこりしたい、心温まる物語を味わいたい方は是非。

 

 

最近は中々映画館に行くこともなく、最後に映画館に行ったのはいつだろう……とすぐには思い出せない始末。しかし、昨今はサブスクリプションも充実し、昔の名作から新作まで、どこにいても楽しめる時代。これが果たしていいのか悪いのか。何とも判断しかねますが、まあ映画の楽しみ方は千差万別、十人十色。好きなように、好きな映画を観ればいいのです。

今回は「家族」をテーマにした四作品を取り上げてみました。どれも毛色がかなり違いますが、気に入るものがあれば幸いです。

それでは秋の夜長、夜通し映画三昧……なんてプチ贅沢もいいかも?

 

 

 

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