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Vol.43 最長は十文字!? 名字のあれこれ大解剖。

ポール・ジャネという哲学者が提唱した説によると「時間の心理的長さは年齢に反比例する」そう。例えば50歳にとっては一年は人生の1/50ですが、5歳の人間にとっては/1/5。つまり歳を重ねるごとに「一年」の比率がどんどん小さくなり、結果、主観的には一年が短く、時間が早く過ぎると感じるということなのです。

この説によれば、僕の一年は体感時間的にはたったの八日。速すぎる時間の流れに辟易するアラフォーライターのタラです。

小説に限らず、漫画やアニメもよく観るですが、最近思う事があります。登場人物の名前、パッと見で読めないな、と。完全フィクションの世界なので現実に無い名前でも構わないのですが、難しい漢字や特殊な読み方の名前の方がウケがいいのかな? と思ったり思わなかったり。

ということで、今回は日本国民ならば誰もが持っている名前の半分、“名字”のお話。

さて、あなたの名字にはどんなルーツが隠されている?


何度か当コラムでも触れてきましたが、普段は配達の仕事をしています。日々、様々な荷物を取り扱うわけで、その際多くの荷札(配達証)を目にします。そこで感じるのは、「色々な名字があるな」ということ。佐藤さんや鈴木さんなどの絶対数が多い名字はもちろん、ある地区にだけやたら多い名字、友人知人にもいない名字、読めない名字……とにかく多種多様な名字が存在しています。諸説ありますが、日本に存在する名字の数は約30万種ほどあるそう(同じ漢字で読み方が違う場合含む)。ちなみに日本で多い名字ランキングは……

1位、佐藤

2位、鈴木

3位、高橋

4位、田中

5位、伊藤

となっており、トップ10の名字だけで日本の人口のおよそ一割を占めていると言われています。逆に最も少ない名字は「左衛門三郎(さえもんさぶろう)さん、臥龍岡(ながおか)さん、努力(ぬりき、ぬるき、こぬるき)さんなどで、全国で10人程度しかいないとか。確かに配達の仕事でも見かけたことのない名字です。

レア中のレアなだけあって、何か字面も恰好いい気が……。左衛門三郎さんなんて、もうそれこそ漫画の主人公みたいだし。

ちなみに僕の名字は全国で123位で15万人程度。何とも中途半端? な感じ。まあこればかりは選べるものでもないのでどうしようもないのですが、もし僕の父が母の婿養子に入っていたとしたら母方の姓になったわけで、その時はちょっと珍しい「貝原」さんでした。全国で3,700人程度しかいないようです。

さらに余談ですが、日本で一番多い名字は「佐藤」さんですが、一番多い同姓同名は何故か佐藤姓ではありません。それどころか鈴木姓でも高橋姓でもなく、その名は田中さん家の実さん。日本には約5,300人の「田中実」さんがいるそうですよ。

 

 

さて、タイトルにもある通り、最も長い名字は十文字。とはいってもそれは読みのことで、漢字にすると五文字が最長で、先述した左衛門三郎と勘解由小路(かでのこうじ)の二姓。

難読姓辞典という資料には十二月三十一日(ひづめ)という名字が掲載されているそうですが、研究の結果これは存在しない名字だと判明しています。何故、十二月三十一日と書いて「ひづめ」と読むのか? どうやら十二月三十一日は一年最後の日で、年末で日が詰まっているため日詰、故に「ひづめ」と読むのとか。当て字にもほどがありますが、まあ存在しない名字なので、この由来の正否も分かりませんが……。

ちなみに似たような日付関連の名字には、四月一日・四月朔日(わたぬき・つぼみ)さん、八月一日・八月朔日(ほずみ)さんなどがあり、こちらはレアですが実在する名字となっています。

では、読みの十文字の姓は? これは「正親町三条」と書いて「おおぎまちさんじょう」と読む、これまた初見では読めない名字。しかし残念ながら明治維新後に消滅してしまったそうで、後には「嵯峨」姓に改姓されたとのこと。だから現存する名字でカウントするならば、左衛門三郎のさえもんさぶろう他、みなみおおばやし、ひがしよつやなぎ、ひがしさんじょう等の八文字が最も長い読みとなっています。

最短は当然漢字も読みも一文字で、伊(い)、鵜(う)、尾(お)、埜(の)、呂(ろ)さんなどの名字があるそうです。当然、会ったこともないですし、配達で見かけたこともない珍しい名字さんたちです。

 

 

30万種もあれば、名字っぽくない名字、名前みたいな名字もゴロゴロ出てきますが、原則として日本人の名前は「名字」+「名前」で構成されています。宗教上等の理由でミドルネームを持っている人もいますが、大半は名字+名前。意味もなく、山田佐藤・太郎なんて名前は存在しません。

では世界に目を向けてみましょう。僕が尊敬してやまないバスケットボールの神様、マイケル・ジョーダン。本名はミドルネームが入ってマイケル・ジェフリー・ジョーダンです。アメリカでは名前が先に来るので、日本風にいうならばジョーダン家のマイケル君です。一般的にはジョーダン(大人気スニーカーもエアジョーダンです)と呼ばれることが多く、いわば名字呼びをしていることになります。日本でも例えば大谷や三苫や井上と、世界で活躍するアスリートを名字呼びすることが多いわけで、別段変ではありません。

しかし非常に個人的で、感覚的な話をさせて貰えば、名前+名字という順番をあまり意識する瞬間がないせいか、ジョーダンが名字だとしっくりこないのです。自分で書いていて何を言っているかわからなくなりそうですが、名字だとか名前だとか無視して、何となく愛称で呼んでいる気になっていたということでしょうか。この感覚、伝わりますか?

 

一方で、名字が無い、考えない、意識しない、使わないという国もあります。モンゴル、インドネシア、ミャンマー、アイスランドがその代表。例えば日本でも有名なモンゴル人、第69代横綱の白鵬。現在は帰化して白鵬翔という名前ですが、本名はムンフバト・ダヴァジャルガルという名前でした。一見すると二つの名前で構成されているので名字+名前のように見えますが、ムンフバトは父親の名で、ダヴァジャルガルが自分の名です。元々、名字という概念がなかったようで、現在は基本的には父の名を家族名(名字)と代用するのが一般的だそうです(地域によって違いはあるようです)。

ではもう一人。ミャンマーの民主化運動において中心を担い、ノーベル平和賞を受賞したこともある女性指導者、アウンサンスーチー氏。少し前まではアウンサン・スー・チーと音節を区切って紹介されていたそうですが、最近は区切りがなくなりました。ミャンマーにも名字がなく、アウンサンが父の名前、スーが父方の祖母の名前、チーを母の名から一部を貰い、それを繋げて名前としています。漫画「ちびまる子ちゃん」で言えば、まる子の本名が「ひろし(父)こたけ(祖母)すみれ(母)」みたいになるということ。文化が違いすぎて、理解できないっ!

 

 

まさに所変われば品変わる。僕たちが普段当たり前に使い、接している名前も、国が違い、文化が違えば、そのあり方は全然馴染みのないものになってしまうのです。

それでは最後にヨーロッパはスペインの名前について。スペイン名は珍しいことに、名前+二つの名字で基本構成されます。二つの名字とは父方と母方のもの。太郎・山田・高橋みたいな名前になるということです。

さらにここに祖父の名や、代父母と呼ばれる名付け親の名前、キリスト教ならではの三位一体名と呼ばれるものなども加える場合もあるため、スペイン人の本名は無茶苦茶に長くなってしまうことも。有名な例を挙げれば、世界的な画家・ピカソでしょう。数々の作品や逸話を残す偉大な画家ですが、その本名は出生証明書によると…

パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・フアン・ネポムセーノ・シプリアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ

となります。これにキリスト教ならではの洗礼名を加える場合もあるので、さらに長くなることも。さらに、ピカソが一般的な呼び名ですが、これは実は母方の祖父の姓。ファーストネーム(名前)はパブロの部分です。自分でもパブロ・ピカソと略称を好んで使用していたようです。これだけ長いと自分の本名を忘れそう……。

自分がもし名前に加えて、父母の姓名、先祖の姓名にミドルネームやら宗教的な何かやらが連なる名前だと想像すると……正直日本人で良かったなぁと思ってしまうのでした。

 

 

 

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