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Vol.45 家に入れたら最期! 出入り業者にご用心な?小説4選。

「一月は行く、二月は逃げる、三月は去る」何て言いますが、早いものでもう三月も終わり。今年も気が付けばアッと言う間に過ぎて行くのでしょう。一日一日の重みを痛感しているライターのタラです。

さて今回はお久しぶりの小説紹介企画。ネタに困ったら小説に逃げているような気もしますが、中々どうしてテーマ選び、そしてテーマに沿った小説作品を探すのは骨が折れるのです。

そんな血と汗の結晶とも言える今回のテーマは広い意味での「出入り業者」。家の修繕をしてくれる工事関係者をはじめ、荷物を届けてくれる配送業者、家事代行をしてくれる家政婦など、仕事で自分の家に「来る」職種の方々です。仕事だからと家に招き入れたら……という、サスペンスな物語をご用意しました。ホラー要素も強めです。

新生活が始まる時期。様々な手続きやら業務やらで家に業者が来ることもあるでしょう。そんな邂逅が少しだけ怖くなる?読書体験をどうぞ。

 

 


1『家政婦トミタ』  高田侑

 

 

<あらすじ>

立ち上げた介護用品会社が時流に乗り業績を上げ、社長として忙しい日々を送る小笠原明。高級住宅地に豪邸を買い、まさに人生の絶頂にいた。だが、大手企業で管理職を務める妻とともに家を空けることが多く、家に残す子供たちが気がかり。そこで家政婦を雇うことに。やってきたのは、富田と名乗る美しい女性だった。その仕事は丁寧で、細部にも気が利き、何よりも謙虚だった。子供たちもすぐに懐き、一家の一員として馴染むのに時間はかからなかった。しかしそれと前後して、小笠原家の周りで不審事が頻発する。偏屈な隣家の仕業かと思われたが、そこには巧妙に隠された富田の罠がしかけられていた!

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どこかで聞いたことがあるようなタイトルですが、パロディと侮るなかれ。中身はド直球のサスペンスホラーです。

普通に暮らしていると、家政婦を雇うという状況が中々想像しづらいですが、昨今では一日二~三時間程度から家事代行を頼めるサービスなども充実しており、価格も1万円前後とお手頃なプランもあるようです。

家の中のかなりのことを任せるため、合う家政婦と出会うのは中々難しいそうで。しかし、そうして見つけた家政婦が「裏の顔」を持っていたら……。怖いのは結局「人」なのです。

まあ結婚生活もろくにこなせなかった僕としては、結婚相手以上に距離がある家政婦に家のことを任せるというのは、100%無理だろうなと思うのでした。

 

2『料理人』  ハリー・クレッシング

 

 

<あらすじ>

どこからともなく現れて、町の半分を支配する旧家ヒル家の料理人と雇われることになったコンラッド。全身黒ずくめという異様ないで立ちに加え、その素性も謎に満ちている。が、彼の作る料理は全て極上だった。一口食べたものは、その味に魅了され、コンラッドの虜になっていく。さらに不思議なことに、肥えた者が食べると瘦せていき、痩せた者が食べると肥り始める。彼の料理に隠された秘密とは? そしてコンラッドの目的とは?

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人間の三大欲求の一つ、「食欲」をテーマにしたブラック・ユーモアたっぷりの一冊。

流石に料理人を家で雇うというのは一般感覚的には馴染みがないことではありますが、確かに職業としては存在していますし、今回取り上げてみました。

我が家にある文庫の初版が1972年なので、50年以上前に発表された小説。ですが、物語全編に漂う何とも不思議な味わいは、時代を経ても色あせておらず、知らず知らず物語世界に引き込まれること間違いなし、です。

 

3『郵便屋』  芹澤準

 

 

<あらすじ>

結婚を間近に控え順風満帆な日々を送っていた和人の元に届いた一通の手紙。差出人も消印も宛名もないその手紙にはたった五文字「ひとごろし」と書かれていた。たちの悪いイタズラだと一蹴するが、同じ手紙をもらった同級生が次々事故死していることを知り、忘れたはずの忌まわしき過去の記憶が蘇る。

どこからともなく表れ、手紙を投函していく不穏な郵便屋。不審に思い問い合わせるも、そんな配達員はいないと告げられる。しかし手紙は毎日のように届けられ、和人の日常は少しずつ狂い始める。そして恋人にその手紙を見られてしまい……。

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日中、郵便局で配達の仕事に従事しているので、郵便屋が不気味な存在として描かれていることには何とも言えない感覚ですが、昨今は確かに最も身近で他人な存在の最たる存在が配送業者かもしれません。手紙や荷物が届けば受け取らるために扉を開けるわけで。そこから良からぬ何かが入り込まないとも言い切れないのです。

とは言え、居留守を使われると、配達している身としては荷物が片付かないので、それはそれで困ったことになるのですが。

30年近く前の小説ですが、通販全盛の今だからこそ染みる「怖さ」がある一篇です。

 

4『ヌヌ 完璧なベビーシッター』  レイラ・スリマニ

 

 

<あらすじ>

「赤ん坊は死んだ」

パリの一画にある小さなアパートで起きた惨劇。幼稚園に通う少女と、まだ歩くことすら覚束ない赤ん坊の姉弟がメッタ刺しされて殺された。凶行に及んだのは、ベビーシッターのルイーズだった。日頃から子供たちを可愛がり、料理も掃除も完璧にこなしてきた彼女が何故? 何も語らないままにルイーズも自殺を図り……。

誰にも知られることのなかったルイーズの孤独と闇。何が彼女を駆り立てたのか、その足跡を辿るように綴る傑作。ジャーナリスト出身の著者の筆致が光る作品です。

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衝撃映像系の番組で、海外のベビーシッターが子供たちを虐待している映像など見かけたことがありますが、本作はその比じゃありません。本来は子供たちを守る側であるはずの存在が命を奪うのです。いかなる理由があろうとも、それは受け入れることはできないでしょう。実話ではありませんが、モデルとなった事件はあったそうで、やはり最終的に怖いのは「人」なのでしょうか。

ちなみに、タイトルの「ヌヌ」とはベビーシッター兼家政婦のような存在を表わすフランスの俗語。日本ではあまり馴染みがありませんが、欧州や中東富裕国では子供いる家庭の多くで雇っているそうです。

しかし日本でも核家族化が進み、共働き家庭が増え、待機児童問題も噴出しています。ベビーシッターという職業がいずれ身近になる将来がやってくる……かも?

 

 

今回は少々イレギュラーな角度から紹介した小説シリーズ。

括るのが難しく、広義で「出入り業者」としましたが、果たしてそう呼ぶのが正しいのかどうか。何となく突き放したような表現ではありますし、肯定的な感じがしないのは僕だけでしょうか。まあ家にやってきて、あれこれ家のことをやってくれる職業という認識で読んでいただければ良いかなぁ。

そして、決して今回紹介した職種を否定したいわけじゃないので悪しからず。どちらかと言えば、僕自身も日中はそちら側の仕事をしているので……。こうした仕事の大事さ、大変は身に沁みているつもりであります。

あくまでフィクションとしてお楽しみください。

 

 

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