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Vol.29 もっと光を。採光を再考する。

今年一年、お付き合いいただきありがとうございました。家選び、家づくりを考えるみなさまの、ほんの箸休め程度にでもお役に立てていたら幸いです。ライターのタラです。

2022年もいろいろなことがありました。少しずつ緩和されてきたとは言え、まだまだコロナの猛威は重くのしかかり、緩い目隠しをされているような、どうにもすっきりしない日々は続いています。来年こそはハッピーで明るい一年にしたい! そんな願いを込めて、今年最後は「光」をテーマにお届けしようと思います。

と、洒落たことを言いましたが、実は部屋の照明器具の具合が悪く、チラチラ点滅するのが気になったからだったりもするんですが……。

何はともあれ、みなさまの2023年が明るく照らされますように。


僕が以前勤めていた広告事務所は、流行の発信地・原宿にありました。それを言うと、友人・知人は「そんな洒落た町で働けていいな」と、大なり小なり羨ましがってくれました。僕は苦笑いを返します。

確かに、最寄り駅は原宿でした。会社までは、最新のショップやら話題のお店、人で溢れる通りを抜けていきます。歩くこと20分強。どこへも寄らず、一直線にそれだけ歩くと、正直みなさんが想像しているような「原宿」ではなく、ひっそりとした住宅街になります。事務所があったのはそんな一角でした。

それでも家賃は相当に高かったのでしょうか。事務所は雑居ビルの半地下みたいな一室。当時の先輩に聞いた話によると、ビルの向かいにあった駐車場よりも家賃が安かったそう。完全な地下室ではなかったゆえに、申し訳程度に窓らしきものはありましたが、そこから陽が入ってきた記憶はありません。朝だろうが昼だろうが真夏だろうが、とにかく照明がないと真っ暗でした。今何時なのかも、外の天気も、情報として入ってきませんでした。半軟禁状態です。

迫る締め切り、無茶を言うクライアント、不条理な修正要請、出てこないアイデア、積み重なるサービス残業……。たびたび社内の空気が重苦しくなることもありました。精神的に落ちるというか、ヒリヒリするというか。

その全ての原因が薄暗い事務所だとは言いませんし、思いません。当時の小さな広告事務所の実情など、どこも似たり寄ったりだったのでしょう。

しかし、あの事務所が半地下になかったら? 大きな窓があって、陽の光が入ってくる明るい空間だったら? とありえない「if」を考えてしまいます。少なからず、好転する何かしらの影響はあったのではないでしょうか。

実際問題、陽が差し込む明るい部屋と暗い部屋、どちらに住みたいかと聞かれれば、恐らく99%の人は明るい部屋を選ぶはずです。また不動産屋で部屋探しをする場合でも、「陽当たり良好、南向き」は人気の売り文句。

単なる気分的なもの? もちろんそれもあります。が、科学的にも自然光が私たちの体と心に多大な影響を与えることは、少しずつ解明されてきています。

 

 

日光を浴びることのメリットの一つ、それはセロトニンという物質が脳内に分泌されることです。これは俗に「幸せホルモン」と呼ばれ、心と身体を安定させ、幸せを感じやすくする働きを促してくれるもの。簡単にいえば、気持ちが明るくなったり、元気になったり、リラックスできたり、やる気を喚起したり。そういう効果があります。

以前、当コラム

「Vol13 暮らしに彩りを。一輪から始める花物語」

https://cac-kenchiku.com/entry01/column_220415/

でも少し触れましたが、近年注目を集めている脳内物質なのです。

ここで疑問。日光ではなく、人工光では駄目なのでしょうか? 明るさを確保するという点においては、それが自然光だろうと人工光だと違いはありません。しかし、ことセロトニンの分泌に関しては大きな違いが。

専門的な説明は避けますが、セロトニンの分泌を活性化させるには、2,500~3,000ルクス(明るさを示す単位)が必要と言われています。

日光は曇りの日でも10,000ルクス程度あるのに対して、一般的な住宅照明は500ルクス程度でしかありません。つまり人工光ではセロトニンがほとんど分泌されないのです。明るさを確保できていれば良い、という単純な話ではないわけ。

ちなみに、アメリカの某企業がまとめた調査によると、自然光が降り注ぐ教室で勉強する子供は、自然光が入りづらい教室の子供に比べて読解力が26%向上し、計算能力についても20%ほど速くなった、という結果が出たとのこと。

思い返してみれば、学生時代、どの教室も基本壁の一面は大きな窓でした。校舎の向きにもよりますが、日中は陽が入ってきて、照明を灯さずとも過ごせていたような気がします。つまり知らず知らずの内に、日光がもたらす好影響を受けて勉強できていたってこと? まあ、その割には大した成績ではなかったわけですが……。

 

しかし、いくら自然光が大切だとはいえ、そこには大量の紫外線が含有しています。昨今では「光老化」という言葉が注目されているようで、これは加齢による老化ではなく、日光つまり紫外線による皮膚へのダメージを警鐘するもの。しみやしわの原因となり、酷いものでは皮膚ガンや白内障などの要因となる場合もあるとか。

日光を取り入れるために直射日光を長時間浴びて、結果病気になっては本末転倒。何事も「適度」が肝心なのですね。

 

 

自然光の話ばかりになってしまいましたが、むろん、照明器具、室内灯だって大事な光のアイテム。照らしてくれればいい、という安直なことではありません。

以前、某テレビ局のカメラマンのアシスタントをしていました。そこで照明の仕事もしていたのですが、これがまた奥が深い。光の当て方一つで、画面の印象はガラッと変わるのです。先輩の照明マンいわく「画に対しては、カメラマンよりも偉い」とのこと。

最近ではフリマアプリやオークションで使う写真を自分で撮る人も多いと思います。いかに商品をよく見せるか。これはカメラの性能よりも、照明の当て方による所が大きかったりします。「カメラ 光の当て方」などを検索すれば、簡単なテクニックなどが紹介されているはず。気になる方は是非。

話が少々逸れてしまいましたが、照明器具の話。

光の強さ弱さもありますが、照明選びにとってももっとも重要なのは「色味」。「昼光色」「昼白色」「白色」「温白色」「電球色」という五つの色温度で表記され、色温度は高いほど青みが、低いほど赤みが強くなります(ケルビン=Kという単位で表わされます)。それぞれの色は以下のイメージです。

昼光色(約6500K)…蛍光灯などの青白い光

昼白色(約5000K)…自然光に近い光

白色(約4100K…人工的な白味がある光

温白色(約3500K)…やや黄色みがある光

電球色(約3000K)…オレンジや黄色味の強い光

※色温度は概数値です。

 

端的に言うと、色温度が低いほどに落ち着いた印象を作り出し、逆に高いと活発さを演出し、集中力を要する空間などに適しています。

もちろん、心地よいと感じる明るさの加減は人それぞれ。「この部屋にはこの照明!」と断言するものではありません。そもそも色温度を計る器具なんて持っている人はほとんどいないでしょうし、あくまで感じ方でしかないかもしれません。

しかし、目で見て感じるからこそ、しっくり来る、来ないという感覚は重要。最近の照明器具には調光機能があるものがほとんど。あれこれ試してみて、自分たちが心地よいと感じる「照明の色」を見つけてみては?

 

 

とりあえず、年内に部屋の照明のちらつきを解消したいと思いつつ、結局そのまま年を越しそうな予感です。こういうぐうたらな性分を、来年こそは変えたい!

それではみなさま、一年間ありがとうございました。2023年が明るく、幸多き一年となりますように。

 

 

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